広島高等裁判所岡山支部 昭和32年(ネ)7号の1 判決 1958年10月17日
控訴人(一審参加人) 日新商事有限会社
被控訴人(一審原告) 小原幾野
被控訴人(一審被告) 小原恵子
主文
原判決の主文中第二ないし第五項を左のとおり変更する。
一審被告が昭和十五年五月三日亡小原賀太郎の死亡に因つてした家督相続を一審原告に回復する。
一審被告が原判決添附第一目録記載の不動産について右賀太郎の死亡に因る家督相続に基き所有権を取得した旨の登記を、一審被告は一審原告に対し抹消せよ。
一審原告の一審被告に対するその余の訴を却下する。
一審参加人の請求を棄却する。
一審参加人が原判決添附第二目録記載の不動産について昭和二十九年十二月四日岡山地方法務局勝央出張所受附第二三一八号でした、債権極度額三十五万円を限度とし、現在負担しもしくは将来負担することあるべき個々の債務を担保するための根抵当権取得登記と昭和三十年十一月五日同所受附第二三七五号、同年八月二十五日附競落許可決定に因り所有権を取得した旨の登記を、一審参加人は一審原告に対し抹消せよ。
訴訟費用は本訴、反訴を通じ、かつ一、二審ともこれを十分し、その六を一審参加人、その三を一審被告、その一を一審原告、の各負担とする。
事実
一審参加代理人は「原判決を取り消す原判決添附第二目録記載の不動産は一審参加人の所有であることを確定する。一審原告と一審被告は一審参加人に対しその引渡をせよ。訴訟費用は一、二審とも一審原告の負担とする。」との判決ならびに「反訴請求を棄却する。」との判決を求め、一審原告代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決ならびに反訴として「反訴被告(一審参加人)は原判決添附第二目録記載の不動産につき、反訴被告(一審参加人)が昭和二十九年十二月四日岡山地方法務局勝央出張所受附第二三一八号、同日附根抵当権設定契約証書によりした、債権極度額三十五万円を限度とし、現在負担しもしくは将来負担することあるべき個々の債務を担保するための根抵当権取得登記と昭和三十年十一月五日同所受附第二三七五号、同年八月二十五日附競落許可決定により反訴被告(一審参加人)のためされた所有権取得登記の各抹消手続をせよ。反訴に関する訴訟費用は反訴被告の負担とする。」との判決を求め、一審被告は一審参加人の主張どおりの判決を求めた。
各当事者の主張と立証は左記を附加するほか原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する。
一審原告
一、一審被告は亡小原賀太郎と一審原告との間に長女として昭和三年一月一日生れたように戸籍上なつており、かつ、昭和十五年五月三日賀太郎の死亡当時戸主たる同人の法定推定家督相続人の形式になつていたのでその家督相続をした。しかし、真実は一審被告は訴外藤田富と同稲葉房子との間の子である。それゆえに、賀太郎の法定推定家督相続人たるべきはずがなく、この家督相続は無効である。
二、一審原告は民法附則第二五条第二項、民法第八九〇条により亡夫賀太郎を家督相続した。
三、一審原告は昭和二十七年十一月まで自己の相続権が一審被告に侵害されていることを知らなかつた。従つて、その間に、表見相続人たる一審被告を真正相続人であると第三者をして信ぜしめるような行為をしたことや、一審被告を相続人に就かしめるような行為に出たことはない。それゆえに、一審原告が一審被告の家督相続の無効を主張したり、相続回復の請求をしたりするのは信義則に反しはしない。
四、反訴請求原因は次のとおりである。すなわち、原判決添附第二目録記載の不動産はもと亡小原賀太郎の所有であつたが、昭和十五年五月三日その死亡に因り一審被告が家督相続をして所有者となつたところ、一審被告はその夫小原昭夫とともに反訴被告(一審参加人)から金員を借り受けるにあたりこれを抵当に供し、反訴被告は反訴請求の趣旨として陳べたようにこれにつき根抵当権取得登記をしたが、反訴被告は抵当権を実行し、右不動産を競落して前掲のように所有権取得登記をした。しかるに、一審被告は亡小原賀太郎の子ではないから、その家督相続をする資格がなく、そのした家督相続は無効であり、前示不動産は一審被告の所有に帰したことがないので、反訴被告はこれにつき根抵当権を取得した事実はなく、前示根抵当権取得登記は無効であり、従つて、根抵当権の実行も、競落による所有権取得もいずれも無効である。それゆえ、これら各登記の抹消を求める。
五、甲第三ないし第五号証、検甲第一号証を提出する検甲第一号証は一審被告の実母稲葉房子が訴外藤田富と婚姻の式を拳げたときの写真である。当審における証人稲葉房子、中尾しかの各証言、一審原告本人の供述ならびに鑑定の結果を援用する。
一審参加人
(一)、一審被告は一審原告の亡夫賀太郎と一審原告の実妹稲葉房子との間の子である。
(二)、仮に、一審被告がした亡賀太郎の家督相続が無効であるとするも、一審原告は、亡甚一郎なりまたは亡賀太郎なりが一審被告を賀太郎と一審原告との間にその長女として出生した旨届け出たことを知りながらそのままに放置し、賀太郎の死亡により一審被告が家督相続の届出をしたこともそのままに放置し、第三者たる一審参加人らに対し恵子を賀太郎の相続人と信ぜしめて疑を起させないような行動を長年月にわたつてとつていたのであるから、一審原告が今となつて一審被告の家督相続の無効、従つて、その相続を一審原告に回復することを主張することは信義則に反し許されない。
(三)当審における証人篠原えい、木村茂一郎、木村栄、有吉兵治、有吉フジ、藤野勘一、藤田富の各証言を援用する。甲第三ないし、第五号証の成立を認める。検甲第一号証が一審原告の主張のような写真であることは不知。
理由
本案の審理に入る前に、一審参加人の訴訟参加が適法であるかどうかにつき争があるので、この点について考察する。
記録によると本件訴訟の経過は次のとおりである。
一審原告小原幾野が一審被告小原恵子に対し「亡小原賀太郎および幾野と恵子との間には親子関係がないことを確定する。恵子が昭和十五年五月三日賀太郎の死亡に因りした家督相続の無効であることを確定する。恵子のした家督相続を幾野に回復する。原判決添附第一目録記載の不動産につき恵子の家督相続に因る所有権取得登記の抹消手続をせよ。」との判決を求める訴を起したところ、その審理中に、一審参加人は民訴第七一条に基いてこの訴訟に参加をすると申し立て、「幾野の請求を棄却する。原判決添附第二目録記載の不動産は一審参加人の所有であることを確定する。幾野と恵子は一審参加人にこの不動産の引渡をせよ。」との判決を求めた。原審はこの参加を適法と認め、幾野、恵子、会社の三面訴訟として審理した結果、幾野の請求をすべて認容し、会社の請求を棄却する旨の判決をした。一審参加人はこの判決に対し幾野と恵子を相手どつて控訴した。幾野は控訴審で一審参加人に対し「原判決添附第二目録記載の不動産につき一審参加人の取得した根抵当権の抹消登記と所有権の抹消登記の各手続をせよ。」との反訴を提起した。
さて、親子関係不存在確認の訴にはその性質上人事訴訟手続法第三二条、第一〇条、第三一条などの準用があるものと解すべく、従つて、右訴訟と通常民事訴訟とは民訴第二二七条にいわゆる「………同種ノ訴訟手続ニ依ル場合………」にあたらないので、これらの訴を併合して提起することは許されないものと解するを相当とする。原審でこれを分離すべきであつたのに、分離をしなかつた違法があるから、当審ではこれを分離し、この判決では親子関係不存在確認の訴を除くすべての訴について判断することにする。
一審原告と一審被告間の訴訟から親子関係不存在確認の訴を除くと、原審の段階では、家督相続無効確認、家督相続回復、所有権取得登記抹消の三個の訴が残る。
ところで、一審原告は右家督相続無効確認を求める訴の請求原因として次のように陳べる。「一審被告は亡小原賀太郎と一審原告との間の子でないから、賀太郎の法定推定家督相続人となつたことはなく、昭和十五年五月三日賀太郎の死亡に因りその家督相続をするいわれはないのにかかわらず戸籍上右両名の子として載つているのを奇貨とし家督相続をしたので、その無効であることの確認を求める。」と。しかし、家督相続が無効なるに因りどんな具体的な権利または法律関係の存在または不存在を主張するのか、その趣旨を主張せず、確認の訴として適法な「訴の対象」を欠くし、相続回復の目的を達成するために相続無効確認を請求することはできないと解するので、右訴は不適法であるといわざるを得ないのみならず、家督相続をしたという過去の事実につき確認の訴が許されないという点からしても、右確認の訴は不適法であつて、いずれの点からするも右訴は却下を免かれない。
そこで、一審原告の如上訴訟中適法なものは家督相続回復請求、所有権取得登記抹消請求の二つとなるから、一審参加人がこの二つの訴に民訴第七一条による参加をし得るかどうかが問題となる。
右二つの訴のうち家督相続回復請求の訴は一面において人事訴訟的性格を有する訴であることはもちろんであるけれども、しかし、家督相続回復の効果は当然相続財産の回復に及ぶべきものであることからして、この訴はこれをいわゆる人事訴訟(人事訴訟手続法所定の訴訟およびこれに準ずべき訴訟)と解すべきでなく、通常民事訴訟と解するのを相当とする。(民訴第一九条にいわゆる「相続権ニ関スル訴………」である。)されば、この訴訟に対しては民訴第六四条以下の参加は当然なし得るのである。そして、所有権取得登記抹消請求訴訟につき右参加ができることは明らかであるから、結局、一審参加人の前示二個の訴訟に対する参加が適法であるかどうかは、もつぱら、一審参加人がこの二個の訴訟に参加する訴益を有するかどうか、すなわち、民訴第七一条所定の要件を備えているかどうかによつて決せられるべき問題である。この点につき、一審参加人は自己が同条にいわゆる「訴訟ノ結果ニ因リテ権利ヲ害セラルヘキコトヲ主張スル第三者……」にあたるものであると主張し、これにあたる事実として、一審被告は亡小原賀太郎を家督相続して原判決添附第二目録記載の不動産(この不動産は同第一目録記載の不動産の一部である。)の所有者となつたが、その不動産について競売が施行され、一審参加人が競落して所有権取得登記をしたものの、一審原、被告間の訴訟で原告の主張が認められるとなると、一審被告の家督相続は無効、右不動産は一審被告の所有でなくなり、従つて、一審参加人の所有権取得が覆えされてしまう、旨主張する。一審参加人のこのような主張は一審原、被告間の前示二個の訴訟に民訴第七一条による参加をする訴益があることを示すものに外ならないと認められるから、その参加は適法である。
そこで本案の審理にはいる。
一審被告は一審参加人の主張どおりの判決を求め、その主張する事実を全部認めている。しかし、本件のように民訴第七一条の参加があつて三面訴訟となる場合には、当事者の三人が一個の訴訟物を争い、従つて、これに対する判決も三人の間の紛争を矛盾なく解決することが要請される関係上、当事者二人の間で他の当事者を害するような訴訟行為ができないものと解すべきであるから、当事者二人の間で請求の認諾がある場合にもそれは無効であると解するのを相当とする。従つて、本件では一審被告のした右請求の認諾は効力を生じない。
本件家督相続回復、所有権取得登記抹消、各請求の前提となる事実として、一審原告は、一審被告が亡小原賀太郎の子ではない旨主張し、この事実が争の対象となつているので、まずこの事実の真否から判断を始めることとする。
成立に争のない甲第一号証の除籍抄本によると、一審被告は亡小原賀太郎と一審原告との間に長女として昭和三年一月一日生れたように戸籍簿上なつていることが窺える。
ところが
(イ)、当裁判所が成立を認める甲第三、第四号証の各除籍謄本、原審および当審証人稲葉房子、原審証人福田こちゑ、小谷ちよ、当審証人中尾しかの各証言ならびに原審と当審での一審原告本人の供述(原審の分は第一回)を綜合すると、次の事実を認めることができる。
一審原告の実妹稲葉房子は大正十五年十一月岡山県苫田郡鏡野町(当時大野村)大字竹田、藤田富と事実上の婚姻をし、大阪市内で同居したが、円満を欠き、離婚を望んで昭和二年七月実家たる一審原告方に帰つた。房子は当時既に懐胎中で同年十二月十八日一審被告を分娩した。当時一審原告方には、その父甚一郎、甚一郎の長男健一郎、甚一郎の長女友がいたが、健一郎は白痴で既に甚一郎の法定推定家督相続人を廃除されており、また友は生来病気であるため、甚一郎はかねがね二女である一審原告とその夫たる壻養子の賀太郎とに家督相続をさせようと望んでいた。ところが長女友がいるのでそれを実現できず、それを実現させるために、甚一郎は昭和三年一月八日賀太郎と協議離縁し、一審原告と賀太郎は協議離婚し、あらためて、同年一月二十八日甚一郎は賀太郎と養子縁組をし、同日一審原告と賀太郎は婚姻し、このようにして甚一郎は賀太郎をその法定推定家督相続人にした。また、一審原告とその夫賀太郎との間に子がないので、甚一郎は前示房子が生んだ一審被告を手許で養育して一審原告夫婦の子としようと欲し、人を介して藤田富に交渉した。藤田富はこれを諒承し、金品を贈つて房子の出産を祝した。房子の叔父小林伸夫は子に恵子と命名した。そして、甚一郎は恵子を一審原告夫婦の子として届け出た。
(ロ)、当審鑑定人三上芳雄の鑑定によれば、前示藤田富および稲葉房子と一審被告との間には、血液型、身体計測、指紋等の科学的諸検査上親子の関係を否定する事情は存しないことを認め得る。
右(イ)、(ロ)、を綜合すると、一審被告は亡小原賀太郎と一審原告との間の子ではなく、訴外藤田富と同稲葉房子との間の子であることを認め得る。
一審参加人は、一審被告は亡小原賀太郎と訴外稲葉房子との間の子であると主張し、当審証人木村茂一郎、木村栄、藤野勘一はそれぞれこれにそう証言をするが、その証言は前掲証拠に対比し措信し難く、他に右主張を認めるに足る証拠はない。
よつて、続いて、一審原告の相続回復の請求につき案ずるに、
前掲甲第四号証によれば、前示小原賀太郎は昭和十五年五月三日死亡したが、死亡当時戸主であり、その家族は妻たる一審原告と戸籍上長女になつている一審被告の両名だけであつたところから、一審被告は家督相続をし、同年同月十五日その届出をしたことを認め得る。しかし、上来説示のとおり、一審被告が賀太郎の子でない以上、その法定推定家督相続人たるべきはずがなく、その家督相続をするいわれはないから、そのした家督相続は無効であるといわざるを得ない。そして、当時賀太郎の指定家督相続人(旧民法第九七九条)がいた形跡もないので、旧民法第九八二条により親族会がその家督相続人を選定する場合に該当していたところ、一審原告は賀太郎の妻であつて、かつ小原家の家女(賀太郎は養子)であるから(甲第四号証参照)、同条第一号により被選定者の範囲に属するので、新民法附則第二五条第二項本文が適用され、賀太郎の相続に関しては新民法に従うこととなり、結局新民法第八九〇条によつて一審原告がこれを相続することとなるわけである。このような次第で、一審原告は真正相続人として表見相続人たる一審被告に対し新民法第八八四条に基き相続回復の請求をし得るのである。
一審被告は
(1)、一審原告は既に右相続回復請求権を放棄した。
(2)、右相続回復請求権は時効により消滅した。
と主張し、一審参加人は
(3)、右相続回復請求権の行使は信義則に反し許されない。
と主張する。
以下順次判断すると、
(1)、相続回復請求権は放棄することが許されない権利である(放棄しても無効)と解すべきである。けだし、家督相続人の資格や相続の順位などは旧民法上法定されており、当事者の意思によりこれを変更することを許さなかつたものと解するのが相当だからである。従つて(1) の主張は理由がない。
(2)、相続回復請求権の時効の起算点として新民法第八八四条が規定する「………相続人………が相続権を侵害された事実を知つた時………」というのは、客観的に相続権侵害の事実が発生し、かつ主観的に相続人がその事実を覚知した時を指すものと解するのを相当とする。本件で言うと、一審原告は前示のように新民法の施行によつてはじめて亡小原賀太郎の相続人たることに確定したのであるから、このときをもつて相続権侵害発生のときと言うべく、かつ、一審原告本人の右供述によると、一審原告は一審被告らの右のような財産散逸を憂え、昭和二十七年十一月二十日頃弁護士植木昇に実状を訴えた際、同人から、一審被告の相続が無効であつて、真の相続人は一審原告であり、一審被告は一審原告に帰すべき財産を侵害しているものであることを聞いた事実を認め得るから、この日をもつて一審原告が相続権侵害の事実を知つた時と認めるのを相当とする。一審被告は、その家督相続届がされた時を、右に言う、相続権侵害の事実を知つた時、と解すべきであると主張するが、採用し難い。そして、一審原告が昭和二十七年十一月二十日から五年以内に本件訴訟を起したことは記録上明らかであるので、その相続回復請求権は時効により消滅してはいない。
(3)、いつたい、一審被告が亡賀太郎を(表見)相続したのは前記(イ)の認定事実に由来する。しかし、右(2) の認定のように、昭和二十七年に至り一審原告がはじめて右相続が民法上表見相続であることを聞き知つたのである。このような経緯から推察すると、法的知識にうとい一審原告としては前示亡甚一郎などの行動により、一審被告が賀太郎の家督相続人に確定したものと思いこんでいて、自己が新民法の施行により賀太郎の相続人となつたことは全く知らずにおり、たまたま一審被告がその相続にかかる財産を散逸するので対策を講じようとしたやさきに、一審被告は表見相続人、自己が真正相続人であることを知つた次第であると認めるのが相当である。一審原告は一審被告を賀太郎の相続人であると信ぜしめるような行動をとつたという、一審参加人の主張を認めるに足る証拠はない。右認定は本件相続回復請求権の行使が信義則に反するものではないことを示しているのである。
それゆえに、一審被告および一審参加人の各抗弁は認められない。
従つて、一審被告が昭和十五年五月三日亡小原賀太郎の死亡に因りした家督相続はこれを一審原告に回復すべきものである。
進んで、一審原告の所有権取得登記抹消請求につき案ずるに、原判決添附第一目録記載の不動産がもと亡小原賀太郎の所有であつたこと、ならびにこの不動産について一審被告が昭和十五年五月三日賀太郎の死亡による家督相続に基き所有権を取得した旨の登記が存することは、弁論の全趣旨に徴し当事者間に争がないところであると認められる。この登記は、上来説示してきたように、一審被告のした賀太郎の家督相続が無効であるから、やはり無効たることは疑を容れないところである。一審被告は一審原告のためにその登記を抹消する義務が存する。
よつて、次に、一審参加人の請求の内容について審究する。
原判決添附第二目録記載の不動産がもと亡小原賀太郎の所有であつたこと、この不動産について一審被告が賀太郎の死亡による家督相続をした旨の登記が存すること、ならびにこの不動産について競売が開始され、一審参加人が昭和三十年八月二十五日附競落許可決定により所有権を取得した旨の同年十一月五日附登記が存することは、弁論の全趣旨に徴し当事者間に争がないところであると認められる。
一審参加人はその所有権に基いて一審原、被告に対しその所有権の確認と引渡を求める。けれども、上来の説示のとおり、一審被告の家督相続は無効であり、同人は右不動産について所有権を取得しなかつたのであるから、右相続登記も競落許可決定による所有権取得登記も無効であつて、結局一審参加人は右不動産について所有権を取得した事実がないことに帰する。従つて、右請求は理由がない。
最後に、一審原告の反訴について考察する。
右第二目録記載の不動産につき、反訴請求の趣旨に記載したような、一審参加人の根抵当権取得登記とその所有権取得登記が存することは、弁論の全趣旨に徴し当事者に争がない。ところが、前示のとおり、一審参加人はこれについて所有権を取得した事実はなく、この不動産の所有権は亡小原賀太郎の真正相続人たる一審原告に属することが明瞭である。ゆえに、一審参加人は一審原告に対しこの二個の登記を抹消する義務がある。
以上の次第で、一審原告の請求中、一審被告に対する家督相続回復および所有権取得登記、各本訴請求と、一審参加人に対する根抵当権取得登記および所有権取得登記の各抹消反訴請求は理由があり、これを認容すべきであるけれども、その余の請求は不適法であるから却下を免れず、また一審参加人の請求は理由がなく、棄却を免れない。原判決の主文中第二ないし第五項はこのように変更されることを要する。
よつて、訴訟費用の負担につき民訴第九六条、第九二条、第九三条にのつとり主文のとおり判決する。
(裁判官 高橋英明 高橋雄一 小川宜夫)